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October 12, 2008

容疑者Xの献身

計測不能がゆえに最強なのが、愛

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【監督】西谷弘
【出演】福山雅治/堤真一/柴咲コウ/北村一輝ほか


原作は、ミステリー作家、東野圭吾氏の「探偵ガリレオ」シリーズ中の長編、
『容疑者Xの献身』。この作品は、第134回直木賞を受賞した。
ミステリーは直木賞を取りにくいジャンルであり、謎解きを軸にした長編としては
初めての受賞になる。ストーリーは、理数の天才同士が火花を散らす知的死闘が
一応のテーマになってはいるが、根底には人を愛することに不器用な二人の
天才の苦悩と葛藤が描かれた人間ドラマがある。

ミステリーにはいろいろなジャンルがある。最もオーソドックスなものは
「犯人捜し型」で、多くの場合、警察や探偵が犯人を捜し、犯人が明らかに
なったり逮捕されたりして物語は終わる。さらに「本格ミステリ」というタイトル
が付くと、「意外な犯人」や「奇想天外なトリック」、「結末のドンデン返し」が
重要視される。一方で、「刑事コロンボ」のように、最初から犯人が示されており、
手口やトリックも読者や視聴者に明かされている「倒叙型ミステリ」と呼ばれる
ジャンルもある。『容疑者Xの献身』は、冒頭で犯人の正体は明かされている
ものの、「奇想天外なトリック」を追っていくという点で「本格倒叙型ミステリ」
とでも言うべき作品になっている。犯人捜し型のミステリでは難しい「犯人の心理」
に踏み込んだ描写がされており、なおかつ謎解きもたっぷり楽しめ、二度おいしい。

「ガリレオ」シリーズは、探偵役の准教授、湯川学(福山雅治)の理系的思考が、
一見、謎、不可能と思われる難事件を快刀乱麻を断つがごとくズバズバと
解決していく「スッキリ感」に面白みがある。「容疑者Xの献身」では湯川の冷徹な
推理はなりを潜め、犯人・石神哲哉の一途な「愛」がクローズアップされる。
天才的頭脳を持ちながら、不運が続いて高校の数学教師に甘んじている
冴えない男、石神をいかに魅力的に描けるかが鍵となってくるのだが、原作では
石神の外見はこう描かれている。

「ずんぐりした体型で、顔も丸く、大きい。そのくせ目は糸のように細い。
 頭髪は短くて薄く、そのせいで五十歳近くに見えるが、
 実際はもっと若いのかもしれない」。

そのうえ口数も少なく、人との付き合いを極力避けるタイプとくれば、
普通はとても人好きのする男ではない。しかし実らぬとわかっていながら
ひたむきに愛を貫く姿には、彼の頭脳が叩きだした完全犯罪が実ってほしいと
願わずにはいられなくなる。
映画で石神を演じるのは、二枚目俳優の堤真一。福山ガリレオの対抗馬を張る
キャラとしても、イイ男過ぎないか。その不安は冒頭で吹っ飛んでしまう。
うつろな目をし、背中を丸め、かろうじて聞き取れる程度にぼそぼそとしゃべる
陰鬱な男。原作と風貌は異なっていても、雰囲気は石神そのものだ。
堤真一は、役作りのために髪を白く染め、前髪をそいで老け感を出すことに
努めたのだそう。物語が進むにつれて、堤Xの演技に圧倒される。哀しみ、怒り、
喜びの感情をこんなにも雄弁に目で語れる俳優は貴重な存在だ。

友を思うがゆえに冷徹な思考を乱し、数字や計算では説明のしようがない
人間的な感情に揺り動かされていく湯川と、愛する人を守らんがために
一切の余計な感情を排除し、ひたすらに機械的思考を押し進めていく石神。
人を愛することに不器用な二人の思いは最後まで交錯することがない。
やりきれなさと切なさに満ちたラストシーンに、涙を誘われない者はいないだろう。
湯川とコンビを組む内海刑事役の柴崎コウは可もなく不可もなくだが、
切々と歌い上げるエンディングは、映画の余韻を深めてくれて◎。

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October 10, 2008

ハンサム★スーツ

隣の芝はいつでも青い

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【監督】英勉
【出演】塚地武雄/谷原章介/北川景子ほか

亡き母の跡を継ぎ、小さな定食屋を営む琢郎(塚地武雅)。
イタリア修行で鍛えた料理の腕は抜群、懐の寂しい馴染みの
じいちゃんには、タダで毎日、弁当をつくってあげる心優しき男。
常連客の誰からも愛される琢郎だが、唯一、女性にだけはモテない。
モテないどころか、ばい菌扱いされる始末。
それもこれも「超」が付くほどのブサイクだから。
そんな琢郎はある日、人生を変える一着のスーツに出会う。
着ただけで瞬時にしてイケメンどころか、足は伸び腹まで引っ込む
ハンサムスーツ。スーツの威を借った琢郎は
「光山杏仁/ひかりやまあんにん(谷原章介)」
として華々しきモテ男ライフを満喫することになるのだが…。

「人は見かけによらない」「人間、中身が勝負」なんて言葉が山ほどあるのは、
世の中の大半が「外見」で人を判断する風潮への良心の警告だろう。
だが、いくら性格がよくても第一印象で引かれてしまったら、
そこでオシマイなのだ。よほど絶世の美男美女でもない限り、
容姿にコンプレックスのない人間はいない。ブサイクを徹底的にくさす
容姿ネタというのは、下手をすれば観る者に共感を呼ぶどころか、
反感や嫌悪感を覚えさせかねない。
物語は、徹頭徹尾、勝負のスタートラインにすら立てないブサイク男、
琢郎の悲痛な叫びに沿って展開されるが、塚地武雄の笑顔と
コミカルすぎる演技が笑うことへの罪悪感を吹き飛ばしてくれる。
谷原章介のはじけた演技もおかしい。

映画では、派手で誰もが憧れる大きな幸せと、地味で属人的な小さな幸せが
対比される。こちらに身を置けば、あちらのほうが素晴らしいものに見える。
隣の芝はいつでも青い。琢郎が下した決断は、人生をハッピーに生きるには
心がけ次第とやんわり説くかのよう。
主題歌、渡辺美里の「My Revolution」はじめ、劇中で流れる久保田利伸の
「LA・LA・LA LOVE SONG」、佐野元春の「SOMEDAY」など、80年代懐メロ
オンパレードが作品を盛り上げる。腹の底から笑って、笑い泣きが感動の涙に
変わる体験をしたいアナタにお勧めしたい。

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