グラインドハウス
2本まとめて叩き売れ!
ほんの20年ほど前の、いわゆる名画座と呼ばれる映画館の
なかには、ある種、無法地帯と化しているところもあった。
600円かそこらの入場料で、ごくたまにA級、大半はB級の作品が2本3本、延々とかかっている。
もちろん入れ替えなどなく、好きなだけ、オールナイトでだって居座り続けられたし、場内はタバコ、アルコール何でもOK。
今でこそネットカフェなんてシャワー完備で快適に夜明かしできる場所がある
けれど、当時は半分、浮浪者、のような人の、格好の雨風しのぎ場でもあった。
最後列の座席に寝そべってタバコをふかしている彼らの横を、煙のカーテンを
かき分け、おそるおそる、床に固定された極めて座り心地の悪い椅子に座って
観たいくつかの映画は、内容の是非はともかく、あの猥雑な雰囲気とともに
忘れられない作品となっている。
アメリカでは、70年代にこの手の映画館が流行した。
その名も、グラインドハウス。主に独立系の映画会社が制作した
低予算のB級映画を2本立て、3本立てで上映するのだが、
上映環境は劣悪この上なく、フィルムのノイズやクラッチなどは当たり前。
途中の巻が紛失して、話がつながらないものもあった。
クリーンかつスマートなシネコンが世の趨勢を占める今、
あえてこういうグラインドハウスのような場末の映画館の雰囲気を、
映画ファンに味わってもらおうと企画されたのが、映画『グラインドハウス』だ。
仕掛け人は、クウェンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲス。
タラの『デス・プルーフ』とロドの『プラネットテラー』の2作品プラス、
合間に架空のCMと架空の映画予告編(驚きの大スター登場!)
が挟まれ、トータル191分の大作となっている。
つまり、全部引っくるめて一つの作品であるにもかかわらず、
日本での公開は1本ずつというのは、あまりに冒涜…
と嘆いていたところ、期間限定での2本まとめて公開があると知り、
TOHOシネマズ六本木、最終日に駆けつけた。
平日の昼間にもかかわらず、場内はほぼ満席だった。
座席を埋める大半は男性で、年齢層はややアッパー気味。
オヤジ・オタク率が極めて高い観客層も『グラインドハウス』の
演出の一部であるかのよう。
191分を駆け抜けた感想はただひと言、「幸福な映画体験」に尽きる。
まず作品が優れているとか、よくできているとかいう以前に、
映画の楽しさ、映画館で鑑賞する醍醐味をとことんまで知らしめてくれる。
エログロナンセンスな2作品なのに、観終えたあとの爽快感、
身体を震わせる興奮は、一体何?映画ばんざい、
「映画ってホントにいいものですねぇ」としみじみつぶやいてみたくなる。
さて、その内容はというと、両作品ともかっ飛んでいる。
先攻ロドの『プラネット・テラー』は、これでもかというほどコテコテの、
正統派ゾンビ作品だ。
「生き残った人々が集結して立てこもる」
「ゾンビ化した恋人や家族を殺さねばならない」
「ゾンビを根絶やしにできず、生存者は新天地を求め旅立つ」
と、ロメロ発のゾンビ映画セオリーをきっちりと守りつつ、
随所に散りばめた小ネタで笑わせ、ほろりとさせてくれる。
糸を引いて落ちるタラちゃん(本作ではちょい役で出演)のキ○タ○、
ブルース・ウィリスの華麗なるトランスフォーマーっぷりに爆笑し、
保安官(お久しぶりのマイケル・ビーン)とステーキハウスのオーナーの、
BBQソースでつながる兄弟愛にうっすら涙。
ポスターでもおなじみの片脚マシンガン美女のチェリーと、
サイケデリックな女医のお色気にクラクラ。ロド、実子をそんな役で出していいんかいの、少年の行く末にポカーン。
飛びに飛んで(これは文字通り!)迎える結末の破天荒さ、
ラストの強引なワンショットは、まさにクラスBの大団円だ。
と、細部にわたりきっちり作り込んでいます感のあるロド作品とは対照的に、
タラの『デス・プルーフ』はのっけから問答無用に暴走しまくっている。
他愛もないけれど妙に生々しいガールズの会話が延々と続き、
オタク好きのする映画へのオマージュが随所で語られ、
明らかにこだわりの見える音楽が高らかに鳴り響く。
これだけフルスロットルに好き勝手、やりたい放題やっているにも
かかわらず、観る者を唸らせ、舌を巻かせることのできる監督なんて、
ほかに考えられない。懐メロなアナログ盤を鳴らすジュークボックス
(タラの私物らしい)の前で腰をグラインドさせて踊るブラックガールが
ポケットから出したものは?レトロな2台のダッジ・カーがチェイスの末に
飛び込んだ高速道路には、一体何が待っていたと思う?
ただのオタクじゃないぜってことを見せつけてくれる、タラ本領発揮の作品だ。
本作でカート・ラッセルが演じたイカれ殺人鬼、スタントマン・マイクは足フェチ
なのだが、タラは尻フェチなのではと疑いたくなるほど徹底した
下半身目線のカメラショットが、B級的エロさをさらに盛り上げる。撮影に7週間かかったという、カーチェイスのシーンは、
手に汗握る激しさと、うっとり見入ってしまう美しさを兼ね備えた完ぺきな仕上がり。
かように99%の天才性でつくりあげられた作品に仕上げの1%は、
カート・ラッセルの見事なまでの怪演が添える。
男性ホルモンをムンムンと発して登場が、最後はあんなことに…。
ラストの突き抜け感は、個人的に『デス・プルーフ』に軍配を上げたい。
翌日、単体封切り初日の『デス・プルーフ』を鑑賞。
ディレクターズカット版となっている本作では架空のCMや
予告編はカットされ、いいところでぶつっと切れては流れる
「1巻消失」テロップのお遊びもなし。『プラネット・テラー』の
役者が数名出演し、「役者使い回し低予算映画」のB級感
でにやっとさせてくれるのだが、その妙味も薄れてしまう。
カート・ラッセルがバーでチーズたっぷりのナチョスを食べるシーンもそうだ。
ぐちょぐちょ、べちゃべちゃと旨そうに貪り食う音から脳裏にフラッシュバック
してくるのは…そう、『プラネット・テラー』の溶解ゾンビだ。
あの余韻があってこそ、存分に怖気立てるシーンなのに…と、
とにもかくにも、バラ上映が残念で仕方がない。
2本まとめて流してくれる太っ腹で心ある映画館の登場を待ちたい。
もっとも、ディレクターズ版では、「消失」した1巻復活で明かされる、
あんなシーンやこんなシーンもかなり楽しかったのだけれど。


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