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September 06, 2007

シッコ

糾弾されているのは誰?

251602【原題】SiCKO(2007年米/ギャガ/123分)
【監督】マイケル・ムーア
【出演】マイケル・ムーア

『シッコ』はドキュメンタリーの皮をかぶったプロパガンダ映画だ。
「お金がないから自分で治療するんだよ」と、交通事故でぱっくり割れた膝を
自分で縫い合わせる男性のショットで始まるオープニングは、映画がこれから
何をとっちめていこうとしているのかをガツンと知らしめてくれる。
このインパクトの大きさといったらもう、のっけからムーアの巨体なみの重量感で
テンプルに一撃食らった心境。

銃、おバカな大統領と、アメリカ国民の身体を脅かす危険に続いて
ムーアがターゲットにしたのは、アメリカの医療保険制度だ。
国民皆保険は先進国なら当たり前の制度だと、「その他のしくみ」すら
考えたこともなかったけれど、民間医療保険会社、製薬会社、病院、医師、
そして政治家がお互いを利することを最大かつ最優先の目的にして
つくりあげられたシステムに、もやはアメリカでは人の命すら、
金になるかならぬかで判断されるものに過ぎないの?
それってあまりにも寒すぎる。

国民皆保険を「社会主義的」と切り捨て、
民主主義のギフトたる自由を讃美する裏側で、保険に入れない貧乏人は、
切断された2本の指から生かす1本を選ばねばならない。
保険に入っている人だって、安心はできない。
難癖とも言うべき理由で保険会社から治療の許可が下りなかったり、
取り消された結果、助かったはずの命が消え、家族や愛する人が奪われていく。

ムーアの怒りは、サイト開設から1週間で2万5千通以上寄せられた、
こうした医療保険被害者たちの声を受け、一気に燃え上がる。
「こんなのって、変じゃないか!?」
ああ、おかしいよ、クレージーだ!

もっとも、ムーアの言うことを鵜呑みにしてはいけない。
作中では、アメリカの制度と比較して、カナダ、イギリス、フランス、キューバの
安価or無料で手厚い医療制度の素晴らしさを褒め称えている。
あくまでジェントルかつカインドに迎えてくれる病院スタッフ。治療を受けるなら、
こういう患者天国のようなところがいいと思わずにいられないだろう。
それでも、ヨーロッパで暮らす病むお金持ちの少なからぬ人は、
アメリカでの手術を望む。事情は違うが、日本から臓器移植を求めて海外に
渡る人が向かう先は、ほぼアメリカだ。
アメリカの医療水準は極めて高いのだ。
「医療費タダ」が意味するのは、税金による公負担。
国が雇用するかたちの医師や看護師は公務員のようなものであり、
「お役所体質」は日本だけの特権ではない。
お役所仕事的病院というのも、ぞっとしない話だ。

問題はあくまで、命をビジネスにする歪んだシステムにある。
そしてムーアが糾弾するのは、そのシステムに跋扈する輩だけではない。
システムの非道さを嘆きつつも容認して受け入れている、
画面の向こう側の人々の傍観っぷりにも喝を入れているのだ。

都合のよい「事実」をつなぎ合わせてつくられた急進的な内容に、
アメリカ人でなくとも、かの国の医療制度が本当にこれほどまでに
クレージーなのか、では自分の国では一体どうなっているんだと
興味をそそられるだろう。そのなかの何人かは、実際にネットなどで
事実かどうかを調べてみるかもしれない。
映画を観終えた観客から、そういったプチ・ムーアが1人でも多く生まれたなら、
『シッコ』はプロパガンダの枠を飛び越え、ドキュメンタリーの可能性を
広げてくれるのではないかと思う。

アメリカの医療制度にまったく興味がなくても、観る価値はある。
日本は確実にアメリカ型医療制度へ移行しつつあるのだから。
営利企業の医療参入が引き起こした事件として、コムスンの不正事件は
記憶に新しい。2008年4月に始まる後期高齢者医療制度、さらに
保険診療と保険外診療の併用を可能とする混合診療が全面的に解禁されたら、
「医療費破産で地下室暮らし」の悪夢は日本でだって起こりうる。
加速する高齢化社会にも「国民皆保険」の制度はこの先もずっと
守ってもらいたいところだけれど、それだけの知恵を捻り出せる頭脳の持ち主が、
今の政治家にはたしているのやら。
できることは養命酒でも飲み、「ポックリ死」を願いながら、せっせと健康の維持に
努めることしかないのかと思うと、なんとも遣りきれない気持ちになってしまう。

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September 05, 2007

さらば、ベルリン

あなたの忠実な豚になりたい。

20060921_126908

【原題】The Good German(2006米/ワーナー/108分)
【監督】スティーブン・ソダーバーグ
【出演】ジョージ・クルーニー/ケイト・ブランシェット/トビー・マグワイア


スーツはもちろん、軍服も白衣も着こなせちゃう。
足を組んで椅子に座る姿、片手で頬杖つく姿。
どんなポーズをとってもいちいちオーラが滲み出てくるカッコマン。
だのに、嫌味なところがまったくない。
ぱりっと清潔、背は高いし、笑顔はとろけそうに素敵。
だのに、見てくれだけの男じゃない。
才能豊かで、真顔でユーモアを飛ばすお茶目さあり、
面倒見のよい頼れるアニキ感もあり。
そんなジョージ・クルーニーには、女性だけじゃなくって男だって落ちるでしょ?

一般公開に先駆け、ジョージ×ソダーバーグ監督の新作、
『さらば、ベルリン』をよみうりホールにて鑑賞。
全編モノクロの本作は、大戦直後の実際の映像を差し挟みつつ、
『カサブランカ』『第三の男』などの40年代アメリカ名画に
見られるクロースアップやローアングルといった古典的撮影手法
を全面的に取り入れて描いたサスペンス映画だ。

第二次世界大戦終結直後、いまだ混乱の続くドイツ・ベルリンを
取材のため訪れた、ジョージ扮するアメリカ人記者のジェイク。
彼の運転手を務めるのは、童顔で人の良さそうなのは見せかけだけ、
戦争で一儲けを企む腹黒い駐留米兵のタリー(トビー・マグワイア)。
何の接点もなかった二人は、謎めいた美女レーナ(ケイト・ブランシェット)
をめぐり、米軍、露軍それぞれが水面下で追う、ある男と、
彼を取り巻く秘密と陰謀に否応なく巻き込まれてく。

『ピースメーカー』以来の軍服姿のジョージには、
もろ手を挙げて、文句なしに見惚れてしまうのだが、
ケイト・ブランシェットの美しさにも、うっとりさせられる。
「映画はスターを見るためのもの」という常識のもと、40年代当時の
映画制作で最重視されていたのは、スターをアップで撮ることだった。
クロースアップに耐えうるクラシカルなお顔立ちの女優といったら、
イマドキはケイトを置いてほかにはない。切り取られたワンショットの輝きは、
『カサブランカ』のイングリッド・バークマンとタイマン張れちゃうほど、まばゆい。
運命に翻弄されるか弱き女性が、おのれの欲のまま動く男どもを相手に、
徐々にファムファタールとしての本性を発揮していくときの、目の凄み。
その冷たいキレに、ぞくぞくしてしまう。

ストーリー的には、引っ張るだけ引っ張っておいて…あら、そうなのと、
「謎とき」の部分にやや物足りなさを感じた。同じく大戦直後を題材にした
サスペンスものの『ブラックブック』のほうが、脚本としては練られていて面白い。
しかし、本作はとにかく、レトロな音楽とモノクロの陰と光が織りなす
古典的フィルムノワールの雰囲気に酔いしれるための作品なのだ。

Clooneypigジョージの熱狂的なファンとして思いきりツボだったのは、
ジョージがケイトに向かって言う「脱がせて」というセリフ。
激渋の良面オヤジにこんなこと言われたら、
嬉々としてのけぞりますね。
その場合にはケイトのようにネクタイからではなく、
質実剛健、ベルトからいかせていただきたいと思います。
…と、妄想花盛りなほど、映画の余韻が止まりません。

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September 01, 2007

グラインドハウス

2本まとめて叩き売れ!

K3100412_2ほんの20年ほど前の、いわゆる名画座と呼ばれる映画館の
なかには、ある種、無法地帯と化しているところもあった。
600円かそこらの入場料で、ごくたまにA級、大半はB級の作品が2本3本、延々とかかっている。
もちろん入れ替えなどなく、好きなだけ、オールナイトでだって居座り続けられたし、場内はタバコ、アルコール何でもOK。

今でこそネットカフェなんてシャワー完備で快適に夜明かしできる場所がある
けれど、当時は半分、浮浪者、のような人の、格好の雨風しのぎ場でもあった。
最後列の座席に寝そべってタバコをふかしている彼らの横を、煙のカーテンを
かき分け、おそるおそる、床に固定された極めて座り心地の悪い椅子に座って
観たいくつかの映画は、内容の是非はともかく、あの猥雑な雰囲気とともに
忘れられない作品となっている。

アメリカでは、70年代にこの手の映画館が流行した。
その名も、グラインドハウス。主に独立系の映画会社が制作した
低予算のB級映画を2本立て、3本立てで上映するのだが、
上映環境は劣悪この上なく、フィルムのノイズやクラッチなどは当たり前。
途中の巻が紛失して、話がつながらないものもあった。
クリーンかつスマートなシネコンが世の趨勢を占める今、
あえてこういうグラインドハウスのような場末の映画館の雰囲気を、
映画ファンに味わってもらおうと企画されたのが、映画『グラインドハウス』だ。
仕掛け人は、クウェンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲス。
タラの『デス・プルーフ』とロドの『プラネットテラー』の2作品プラス、
合間に架空のCMと架空の映画予告編(驚きの大スター登場!)
が挟まれ、トータル191分の大作となっている。

つまり、全部引っくるめて一つの作品であるにもかかわらず、
日本での公開は1本ずつというのは、あまりに冒涜…
と嘆いていたところ、期間限定での2本まとめて公開があると知り、
TOHOシネマズ六本木、最終日に駆けつけた。
平日の昼間にもかかわらず、場内はほぼ満席だった。
座席を埋める大半は男性で、年齢層はややアッパー気味。
オヤジ・オタク率が極めて高い観客層も『グラインドハウス』の
演出の一部であるかのよう。

191分を駆け抜けた感想はただひと言、「幸福な映画体験」に尽きる。
まず作品が優れているとか、よくできているとかいう以前に、
映画の楽しさ、映画館で鑑賞する醍醐味をとことんまで知らしめてくれる。
エログロナンセンスな2作品なのに、観終えたあとの爽快感、
身体を震わせる興奮は、一体何?映画ばんざい、
「映画ってホントにいいものですねぇ」としみじみつぶやいてみたくなる。

さて、その内容はというと、両作品ともかっ飛んでいる。
先攻ロドの『プラネット・テラー』は、これでもかというほどコテコテの、
正統派ゾンビ作品だ。
「生き残った人々が集結して立てこもる」
「ゾンビ化した恋人や家族を殺さねばならない」
「ゾンビを根絶やしにできず、生存者は新天地を求め旅立つ」
と、ロメロ発のゾンビ映画セオリーをきっちりと守りつつ、
随所に散りばめた小ネタで笑わせ、ほろりとさせてくれる。
糸を引いて落ちるタラちゃん(本作ではちょい役で出演)のキ○タ○、
ブルース・ウィリスの華麗なるトランスフォーマーっぷりに爆笑し、
保安官(お久しぶりのマイケル・ビーン)とステーキハウスのオーナーの、
BBQソースでつながる兄弟愛にうっすら涙。328315view001_3
ポスターでもおなじみの片脚マシンガン美女のチェリーと、
サイケデリックな女医のお色気にクラクラ。ロド、実子をそんな役で出していいんかいの、少年の行く末にポカーン。
飛びに飛んで(これは文字通り!)迎える結末の破天荒さ、
ラストの強引なワンショットは、まさにクラスBの大団円だ。

と、細部にわたりきっちり作り込んでいます感のあるロド作品とは対照的に、
タラの『デス・プルーフ』はのっけから問答無用に暴走しまくっている。
他愛もないけれど妙に生々しいガールズの会話が延々と続き、
オタク好きのする映画へのオマージュが随所で語られ、
明らかにこだわりの見える音楽が高らかに鳴り響く。
これだけフルスロットルに好き勝手、やりたい放題やっているにも
かかわらず、観る者を唸らせ、舌を巻かせることのできる監督なんて、
ほかに考えられない。懐メロなアナログ盤を鳴らすジュークボックス
(タラの私物らしい)の前で腰をグラインドさせて踊るブラックガールが
ポケットから出したものは?レトロな2台のダッジ・カーがチェイスの末に
飛び込んだ高速道路には、一体何が待っていたと思う?
ただのオタクじゃないぜってことを見せつけてくれる、タラ本領発揮の作品だ。

本作でカート・ラッセルが演じたイカれ殺人鬼、スタントマン・マイクは足フェチ328314view002_2
なのだが、タラは尻フェチなのではと疑いたくなるほど徹底した
下半身目線のカメラショットが、B級的エロさをさらに盛り上げる。撮影に7週間かかったという、カーチェイスのシーンは、
手に汗握る激しさと、うっとり見入ってしまう美しさを兼ね備えた完ぺきな仕上がり。

かように99%の天才性でつくりあげられた作品に仕上げの1%は、
カート・ラッセルの見事なまでの怪演が添える。
男性ホルモンをムンムンと発して登場が、最後はあんなことに…。
ラストの突き抜け感は、個人的に『デス・プルーフ』に軍配を上げたい。

翌日、単体封切り初日の『デス・プルーフ』を鑑賞。
250201ディレクターズカット版となっている本作では架空のCMや
予告編はカットされ、いいところでぶつっと切れては流れる
「1巻消失」テロップのお遊びもなし。『プラネット・テラー』の
役者が数名出演し、「役者使い回し低予算映画」のB級感
でにやっとさせてくれるのだが、その妙味も薄れてしまう。
カート・ラッセルがバーでチーズたっぷりのナチョスを食べるシーンもそうだ。

ぐちょぐちょ、べちゃべちゃと旨そうに貪り食う音から脳裏にフラッシュバック
してくるのは…そう、『プラネット・テラー』の溶解ゾンビだ。
あの余韻があってこそ、存分に怖気立てるシーンなのに…と、
とにもかくにも、バラ上映が残念で仕方がない。
2本まとめて流してくれる太っ腹で心ある映画館の登場を待ちたい。

もっとも、ディレクターズ版では、「消失」した1巻復活で明かされる、
あんなシーンやこんなシーンもかなり楽しかったのだけれど。

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